2022/11/23 13:46


                                     photo:いしかわみちこ

"暮らしに寄り添うかたち"

同じような何気ない日々を大切にすることは日常を豊かにする事に繋がるのだと感じます。

当たり前の毎日に目を向けるきっかけになるような、心を豊かにできる存在であってほしいと思い日々制作しています。


私自身が石とどう向き合って制作をしているのか考えていたら、バード・ベイラー著「すべてのひとに石がひつよう(Everybody needs a Rock)」という素敵な絵本を Watermark さんが紹介くださいました。  自分にとって特別な石をみつけるルールが、とても繊細でかつ大胆な言葉で描かれています。 

自分にとって必要な"石"ってなんだろう?と考えたときに、私にとって必要でかけがえのないものは、石を彫ると心に強く決めたその"意志"なのだと発見しました。 

この先、私にとって特別な"いし"はきっと増えていくでしょう。 ひとつひとつ、これからも大胆かつ真剣に向き合っていこうと思います。 



石を彫るという多くの人が馴染みのない経験。 作品制作の過程をご紹介したいと思います。 (長文になるので休憩しながら読んで頂けると幸いです。) 




①グラインダー(刃物を回転させて、切削や研磨を行う工具)で石に切り込みをいれて、石頭(ハンマー)とノミで大まかに形を彫ります。 

②そのあとリューター(細部を削るための電動切削工具)や、コンプレッサーを用いたエアー工具(空気圧で回転する切削工具。細かくも切削の強度が欲しい時に用います。)で細かい部分を削ります。 

歯医者さんが、器具で歯を整えるイメージにちょっと近いでしょうか。 

石の瓶の作品などに穴を開ける場合、穴を空けたい箇所をグラインダーで平らにした後、リューターでくぼみを作り、振動ドリルで打撃を与えながらドリルの長さの限界まで水を与えながら切削を行います。 
 
穴あけをする際に気をつけなければならないことは、3 つあります。 
1つ目は石の厚みを十分にもたせること。石の外側の形を決めてしまったあとに、穴を空けると外側が思わぬ方向に割れてしまいます。かといって、形を決めずに穴だけ先にあけてしまうと、フォルムが硬くなってしまうので、「このぐらいの厚みや量感があるくらいで空けたほうがいい」という自身の判断で作業します。 
 
2つ目は、必ずリューターでくぼみをつけること。くぼみを付けずにドリルで穴を空けるとドリルが面の上を滑ってしまい、ドリルビットが折れて、怪我をする可能性があるからです。ほんのちょっとの気遣いで出来上がるものは格段に違うと気がつきました。 
 
3つ目は、必ず水をかけながら作業すること。穴を空けているとドリルビット自体が熱を持ち、焼き入れ(ドリルが熱を持つことによって、柔軟性のないとてももろい金属になること)に近い状態になり、ドリルが折れてしまうことがあります。ですので水かけすることで熱を持たせないようにし、と同時に作業中の粉塵を除去することができます。

 
 
③磨く工程について 
グラインダーやポリッシャー(専用のブラシやパッドをつけて水を用いながら、研磨や洗浄を行う工具)で磨き、最後は形を確かめながら仕上げますます。 電動工具やエアー工具のみで研磨をするとどうしても形が硬くなり、柔らかい表現が出にくいためです。大まかには機械に頼りますが、刃物跡は砥石や耐水ペーパーで、ひたすら手を動かして傷を消して、理想とする形に近づけてゆきます。水をつけながら荒い目の砥石から徐々に細かくしていきます。耐水ペーパーも併用して磨き上げてゆくと、徐々に石の模様が鮮明に浮き上がり、形に艶が出てきます。逆に面が甘いところが出てきたり、その前の番手の傷がまだ残っていたりすることがあります。 傷を消したい場合は再度番手を落として研磨します。 
作品によってはむしろ傷がいい塩梅になることもあり、時には消さない勇気が必要なこともしばしば。 
  
磨いたあと石の模様が目立ちすぎる場合は、サンドブラストで少し艶消しし、模様を曖昧にします。 サンドブラストとは、空気圧で勢いよく作品に砂を当てて表面に傷をつけるという技法です。 曇りガラスもサンドブラストの一種です。
作品によって、磨いては曇らせてという工程を何回か繰り返して完成します。 
 
作品を作る工程で、効率重視でやる作業と自分の表現を大事にする作業が常に往復します。 せっかくツルツルに磨き上げたのに、何か違うと感じたら、迷いなく形を壊せることが持ち味だと私は考えています。それは破壊の行為ともとれますが、目の前の作品に真剣に向き合っているとも考えられます。それは私自身だけではない、石という素材があるからこその行為で、むしろそれがものすごく楽しいと感じます。面と向き合ってやろうじゃないか!という感覚です。 
 
石を彫る作業は長時間、同じ作業の繰り返しですが、その中にも僅かな変化や気づきを与えてくれます。 
 
個展のタイトルである「豊かな静謐」は、石を削る作業のような同じような繰り返しの日々でも、ほんのちょっとの変化を楽しんだり、発見できたり、そんなきっかけをもたらすものであったらなぁという思いから付けました。 
 
長くなりましたが、展示をより一層楽しめるような読み物になりましたでしょうか? 
 
大学通りの綺麗な銀杏並木沿いにある Watermark さんにて、皆様に出会えることをとても楽しみにしています。 


 アトリエ付近の風景


【山本恵海ー豊かな静謐】 11/19 (土)-12/4 (日) 13:00-19:00 / 日曜 12:00-17:00/ 火曜・水曜休み
会 場:WATERMARK arts & crafts(株式会社WATERMARK) 186-0002 東京都国立市東2-25-24-2F
問合せ:tel 042-573-6625 

山本恵海 Yamamoto Megumi
1989 宮城県生まれ
2013 多摩美術大学美術学部彫刻学科卒業
2015 多摩美術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了

《展示・受賞》
2021 個展「生活の片隅に異物を置く」/江の島・Gallery&Cafe Gigi、SICF22/スパイラルビル
2020 KAIKA TOKYO AWARDS 入選
2019 個展「生活の中に異物を置く」/代々木・株式会社SUPERSUPER
2018 くにたちアートビエンナーレ2018 優秀賞
2017 CCC Awards2017:art in the office 入賞
2016 いりやKOUBO 準大賞
2015 個展「虹と雨と瓦屋根」/代官山・gallery 子の星、 KAJIMA彫刻コンクール 入選

《パブリック》
​横浜市金沢動物園、 国立市富士見台さくら通り、 チャームプレミアグラン御殿山

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