「絵描きになりたかった少年の話」周 豪 Zhou Hao

「絵描きになりたかった少年の話」周 豪 Zhou Hao

「絵描きになりたかった少年の話」
2023年2月7日初版発行
2026年1月9日第二版
著者:周 豪 Zhou Hao
仕様: A5サイズ モノクロ 106ページ
発行:株式会社WATERMARK (WATERMARK arts & crafts)
協力:清水良匡 清水典子
印刷:株式会社グラフィック
design | WATERMARK arts & crafts
¥1,500 税込

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前書きより

故郷の上海にいながら、異郷にいるようなこの感触はいったい何だろう?窓の下で走り回る子ども達が上海の方言ではなく、普通話(北京語を基準にした中国における標準語)で会話しているのを聞いて、一種の故郷喪失を思う。恐らく、郷愁を惹起するものは何といっても「方言」と「味」なのだろう。

1979年、鄧小平の改革開放運動を機に中国は激変を成し続けてきた。その以前は出国、パスポート、ビザという言葉も、飛行機に乗ることも一般庶民には無縁の話だった。パスポートが貰えることは珍事であり、自慢できる大きなネタであった。なかには周囲に見せびらかすうちに、国を出る頃にはもうボロボロの古物と化していた笑い話もあるぐらいだ。

屈指すれば僕は2022年現在、日本に来て39年となる。絵描きになる夢がそのまま僕の今の日常となっていることはこの上ない幸せだと噛み締めている。

ここに綴った、日本留学するまで上海で過ごした日々の断片は、2014年前後の上海で、当時まだ生きていた父の介護の合間に少しづつ書き溜めてはホームページで発表したものに基づいている。思いのほか、周囲にはけっこう面白がられ、その後も制作の合間に筆を進めていた。二年前、本にしないかとの話もあった。名の知れた出版社であったが、最終的には出版に漕ぎ着けなかった。当初からそれを前提に書いたつもりではなかったが、少々残念に思いながらも僕は諦めた。そんな中、ウォーターマークの清水さん夫妻からこの回想録をとにかく形にしようとの提言をいただき、今回のような冊子の形にまとめることになった。僕はホームページを閉じて初めて知ったのだが、お二人は僕のホームページの回想録の熱心な読者だった。お二人の熱意と尽力に心から感謝の意を表したい。

「文革」についての書物は多々あり、当時のことを知ろうと思えば、ネットなどで手軽に関連情報が入手出来る。しかし子どもが目にした当時の光景と感想は経年誤差を差し引いても、それなりの意味があるだろうと、この文章の中では敢えてラフスケッチに止めておいた。また絵描きである僕にとって、普段の制作と違って本にするという共同作業は楽しかった。デジタルによって出来上がった極めて個人的なこの体裁も今の僕には合っているように思う。


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